AI-OCRの課題から現場を解放。「人と技術のハイブリッド」で加速させる紙帳票のデジタル化
社名 | 鴻池運輸株式会社 |
事業内容 | 物流サービスほか |
ウェブサイト | https://www.konoike.net/ |
– お話を伺った方 –
西日本支店
大阪北港定温流通センター営業所
所長:松田 学 氏
同営業所 副長:比本 宜吾 氏
同営業所 グループリーダー :下園 一則 氏
※取材日時点
Highlight
- 人手不足に備える生産性向上策としてRPAとAI-OCRの併用を検討
- なお残る「文字認識後のチェック作業」が課題に
- 解決を導いた自社グループ発(シャイン株式会社)の新サービス「デジパス」
物流企業として140年余の歴史を持つ鴻池運輸株式会社(大阪市中央区)は、業界で深刻化している人手不足を受けた生産性向上策として、紙帳票などをデジタルデータ化するAI-OCRと、データの定型的な処理をソフトウエアに委ねるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)に着目。目視による確認作業が運用上の負担となるAI-OCR以外の手法を検討した結果、自社グループが開発した新サービス「デジパス」の採用を決めた。帳票類をスキャンすると短時間で変換・確認済みのデータが届くデジパスと、RPAツール「BizRobo!」の併用により、1日2時間を要した在庫管理関連の業務が、ほぼ完全に自動化。物に添えた“紙”で情報を伝える文化が根強い業界におけるデジタル化の加速と、それに伴うリソース創出効果が期待されている。
物流拠点の事務作業にRPAとAI-OCRの併用を検討
手入力をなくしても「確認作業が残れば効率化は限定的」
商品の保管を通じ、日々変動する需要と供給を取り持つ倉庫業。このうち1880(明治13)年創業の老舗である鴻池運輸株式会社の定温物流部門は、冷凍食品、加工食品、中間原料といった温度管理を伴う分野で、商品の保管と全国配送を担っている。
主要拠点である「大阪北港定温流通センター営業所」は2万7,000平方メートルの倉庫面積を誇る関西有数の定温倉庫で、116人いるスタッフのうち約15人が事務を担当する。ここで進む業務変革の取り組みを、所長の松田学氏は次のように語る。「今後さらなる人手不足が見込まれる中、単純作業を減らして新人の学習環境を整え、習熟を早めることが重要と考えています。そこで、入力作業が要らない電子帳票への移行を進めると同時に、一定数残る紙帳票をデジタルデータ化するプロセスも改善しようと、2018年にRPAとAI-OCRの検討を始め、翌年RPAを導入しました。一方AI-OCRによる文字認識は手入力をなくせるものの、変換結果を人が確認しなければなりません。そのため効率化の効果は限定的とみて、他の方法を探っていました」
「紙帳票のデジタルデータ化」に特化したオンラインサービス
チェック不要の精度保証されたデータで現場負担を解消
AI-OCRの活用検討で直面する課題に関して松田氏らの相談を受けたのを機に、同社のIT部門は、紙ベースの情報を速く・正確にデジタルデータ化するオンラインサービス「デジパス」を開発。DX支援を目的に新設した「シャイン株式会社」を通じ、自社内外に提供することを決めた。
独自のロジックで文字認識技術と目視を併用する「人と技術のハイブリッド」が特徴のデジパスは、帳票類のスキャン画像をもとに、デジタルデータを最短120分で納品するサービスだ。検証結果に基づいて正確性を保証するため、ユーザーの確認作業は不要。手書き文字にも対応し、例えば「印刷部分に横線を引いて数値を書き加えた帳票」なども的確にデータ化できるのが強みだ。
RPAと組み合わせれば、データ納品後ただちに後続の処理を自動実行でき、スキャンした時点で作業を“手離れさせる”ことも可能。「手入力が不要となった担当者に別の仕事を任せたいのに、チェック作業が妨げとなる」といった業務改善の悩みを解決できるソリューションだ。
納品書をスキャンするだけでデータ化。手書き修正も反映
作業負担も大幅に改善、業務見直しの気運が高まる
デジパスの導入により、従来同営業所で1日およそ100枚行っていた納品書のデータ入力と確認作業は不要となり、最大2時間の余力が創出された。
これらの作業を担ってきた1人である下園一則氏は、デジパス利用時の手順を「手書き修正があってもなくても納品書をスキャンするだけ。あとは検品データと一致しない旨のメール通知が来たときに該当箇所を確かめれば済むようになりました」と説明。「目を酷使する照合作業が要らなくなるメリットも強く実感しました」と明かす。
所長の松田氏とともにデジパスとRPAの活用を進める同営業所副長の比本宜吾氏は「確認、照合といったミスの生じやすい工程を解消し、メンタル面でも担当者の負担を軽減できました」と評価。業務改善のメリットを体感した現場で、自発的に作業内容を見直す動きが活発化しだしたのを歓迎しているという。
定型作業のさらなる効率化で、人は「マルチスキル」を目指す
デジパスのサービス運営協力にも意欲
デジパスと一体となって同営業所の業務効率化を担うRPAは、導入当初こそ対象選定に手間取ったものの、約3年の運用を経た現在では鴻池運輸全社で活用が進み、「業務を丸ごとデジタル化しようと欲張らず、地味に面倒なタスクを細かく切り出し、15分相当からでも置き換えていく」(比本氏)着実な姿勢が共有されているという。
一般にデジタル化の障壁とされる紙帳票について松田氏は「受け渡すだけで情報を伝えられる利便性もあり、物流業界では簡単になくならない」と分析。その上で「紙からデータを簡単に取り出せるデジパスのようなサービスが、今後必要不可欠な存在になっていくのでは」と予測する。
「定型作業のデジタル化で生まれた余力をもとに各自が担う仕事の幅を広げ、マルチスキルにふさわしい待遇で人手不足の解消につなげられたら」と語る同氏は、営業所内でのデジパスの活用拡大にとどまらず、外部への普及活動や、サービスの運営協力にも意欲をみせている。